IEEPAに基づくトランプ関税をめぐる米国最高裁判決

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背景

トランプ大統領は就任後、カナダ、メキシコ、中国からの違法薬物の流入と、米国の「大規模かつ継続的な」貿易赤字を国家安全保障上の脅威と位置付け、国家緊急事態を宣言しました。そのうえで、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act、以下「IEEPA」)に基づく権限を行使し、各国からの輸入品に関税を課しました。

違法薬物対策として、カナダとメキシコからの輸入品の大部分に25%、中国からの輸入品の大部分に10%の関税を課しました。また、貿易赤字への対応として、すべての貿易相手国からの輸入品に最低10%の「相互関税」を設定し、多数の国にはさらに高い税率を適用しました。その後も税率の引上げ、引下げなど、複数回にわたる変更が行われました。

政権は外国が関税を負担すると主張していましたが、実際に関税を納付するのは米国内の輸入事業者です。その負担は商品価格を通じて消費者に転嫁される場合もあり、とりわけ追加コストを吸収する余力が限られる中小企業に大きな影響を与えました。

こうした状況を受け、複数の中小企業と12州が、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないとして訴訟を提起しました。これに対し政府は、IEEPAが外国からの脅威に対処するため輸入を「規制する」権限を大統領に認めており、その権限には関税の賦課も含まれると主張しました。

米国最高裁判所の判断

2026年2月20日、米国最高裁判所は Learning Resources v. Trump, No. 24-1287 (2026) において、IEEPAは大統領に輸入品への関税を課す権限を与えていないと判断し、IEEPAに基づく関税を違法としました。

最高裁が重視した第一の点は、関税は本質的に「税」であり、課税権は憲法上、原則として連邦議会に属するという点です。連邦議会が大統領に課税権限を委ねるのであれば、その意思を法律上明確に示す必要があるとしました。

第二に、最高裁は「重要問題の法理(Major Questions Doctrine)」を適用しました。この法理によれば、経済的・政治的に極めて重大な政策決定について、曖昧な法律の文言だけを根拠として、連邦議会が行政機関や大統領に広範な権限を与えたと解釈することはできません。

今回の関税は、多数の国や幅広い品目を対象とし、数兆ドル規模の貿易に影響を及ぼし得るものでした。最高裁は、このような重大な権限を連邦議会が大統領に与えるのであれば、法律に明確な根拠が必要であり、IEEPAにある輸入を「規制する(regulate importation)」との文言だけでは不十分と判断しました。

第三に、最高裁はIEEPAの条文そのものを検討しました。IEEPAは、外国の財産や取引について調査、阻止、規制、禁止などを行う権限を大統領に認めていますが、「関税(tariffs)」や「関税・租税(duties)」を課す権限について明記していません。

他方、連邦議会が大統領に関税に関する権限を認めた他の法律では、「duties」などの明確な用語が使用されています。最高裁は、「規制する」という一般的な表現から課税権まで導くことはできないとしました。

第四に、最高裁は歴史的な経緯も検討しました。IEEPAの約50年にわたる歴史の中で、同法を根拠として関税を課した大統領はこれまで存在しませんでした。この点も、IEEPAが大統領に関税賦課権限を与える法律として制定されたものではないとの解釈を裏付ける事情とされました。

以上から最高裁は、IEEPAは一定の外国経済活動を規制する権限を大統領に認めているものの、関税を課す権限までは認めていないと結論付けました。

今回の判決は、課税を含む重大な経済政策の決定は原則として連邦議会に属し、大統領がその権限を行使するには明確な法律上の根拠が必要であるという憲法上の原則を改めて示したものといえます。

支払済み関税の還付

最高裁判決では、IEEPAに基づいてすでに徴収された関税を輸入事業者へ還付するかについて、具体的な判断は示されませんでした。

その後、2026年3月4日、米国国際貿易裁判所(Court of International Trade、以下「CIT」)は、IEEPAに基づいて徴収された関税は違法であるとして、米国税関・国境警備局(U.S. Customs and Border Protection、以下「CBP」)に対し、還付を求める訴訟を提起していない輸入事業者も含め、関税を支払った輸入事業者に還付するよう命じました。

もっとも、実際の還付手続には時間を要する可能性があり、政府によるCITの命令への不服申立ても予想されます。関税を支払った企業にとっては、今後の裁判手続やCBPによる還付手続を継続して確認する必要があります。

本記事は法的助言を目的とするものではなく、一般的な法原則の概要を紹介するものです。適用される法原則は法域や個別の事情によって異なる場合があります。具体的な案件については、弁護士その他の専門家にご相談ください。本記事の掲載によって弁護士・依頼者関係が成立するものではありません。

本判決で私が特に注目するのは、IEEPAに基づく関税を否定した結論そのものよりも、最高裁内部で、その結論に至る法的アプローチが分かれた点です。

Roberts首席判事が執筆し、Gorsuch判事及びBarrett判事が参加した意見部分では、Major Questions Doctrineが適用され、経済的・政治的に極めて重大な権限をIEEPAの一般的な文言から導くことはできないとされました。これに対し、Kagan判事、Sotomayor判事及びJackson判事は、この法理に依拠する必要はなく、IEEPAの文言と制定法上の構造という通常の法令解釈によって同じ結論に達するとしました。

この違いは、今回の関税問題を超えて重要です。Major Questions Doctrineを適用する立場では、行政権が経済・社会に重大な影響を及ぼす政策を実施する場合、議会からより明確な授権を受けているかが重要になります。他方、通常の法令解釈を中心とする立場では、政策の重大性を独立した判断要素とするよりも、議会が実際に制定した条文の文言、構造及び関連する制定法との関係から行政権の範囲を判断します。

したがって、本判決は「大統領にIEEPA上の関税賦課権限があるか」という通商法上の問題を解決しただけではありません。より長期的には、Major Questions Doctrineが大統領による権限行使にどこまで適用されるのか、そして最高裁が行政権と議会権限の境界をどのような法理によって画していくのかを考える上でも重要な判決です。

今回のIEEPA関税をめぐる争いには結論が示されました。しかし、その結論に至った最高裁内部の法理の違いは、今後の行政法及び大統領権限をめぐる訴訟に重要な論点を残しています。

※この記事は法律上の助言を構成するものではなく、一般的な法的原則の一般的な概要のみを示しています。 これらの原則は、管轄地によって異なる場合があります。 ご自身の特定の状況については、弁護士に相談する必要があります。 この記事の公開によって弁護士と依頼人の関係が形成されません。

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