犯罪で有罪判決を受けた者の投票と公職の制限 

憲法

2024年5月30日、ニューヨーク州の陪審は、ドナルド・トランプ元米大統領に対する口止め料裁判における業務記録の改ざんに関連する34件の刑事責任を認め、有罪判決を下しました。この有罪判決により、トランプ氏は有罪判決を受けた初の元米大統領となりました。 

しかし興味深いのは、この有罪判決はトランプ氏が大統領再選を目指すのを妨げません。しかし、現在立候補している次期大統領選挙を含め、今後の選挙で投票できなくなる可能性はあります。 

このニュースを踏まえて、犯罪で有罪判決を受けた人が投票や選挙に立候補できる場合について、合衆国の法律を検討しましょう。 

有罪判決を受けた犯罪者の投票制限

合衆国では、(軽犯罪ではなく)重罪に対してのみ投票の制限や禁止が課せられています。何を重罪とするかは州によって異なりますが、一般的には深刻な犯罪に該当します。合衆国では、有罪判決を受けた重罪犯に対する選挙権の制限または禁止は、「重罪による選挙権剥奪」と呼ばれています。 

合衆国における重罪による選挙権剥奪の歴史

合衆国における重罪による選挙権剥奪のルーツは、「悪名高い犯罪」で有罪判決を受けた個人を市民参加に値しないと見なしたイギリスの慣習法にさかのぼります。この原則は合衆国で採用され、拡大されました。 

今日、重罪による選挙権剥奪が政治的に分裂を招く問題となっているのは、過去にしばしば人種差別的慣行と絡み合っていたからです。特に南北戦争後、南部の州はアフリカ系アメリカ人の投票を抑圧する広範な戦略の一環として重罪による選挙権剥奪法を施行しました。 

意図的で差別的な選挙権剥奪法は廃止されましたが、重罪の選挙権剥奪は、刑事司法制度内の体系的な人種的偏見に起因する高い収監率により、アフリカ系アメリカ人のコミュニティに不釣り合いな影響を及ぼしています。Sentencing Projectによると、2020年の時点で610万人以上のアメリカ人が重罪の有罪判決により権利を剥奪されており、アフリカ系アメリカ人は非アフリカ系アメリカ人の4倍の割合で権利を剥奪されています。 

これらの制限はまた、社会経済的にも重大な意味を持っています。選挙権の剥奪はしばしば他の社会的・経済的疎外と重なり、社会復帰を試みる元収監者が直面する課題を悪化させます。投票できないことは、市民としての参画や主体性を妨げ、排除と無力化の連鎖を永続化させる可能性があります。 

重罪による選挙権剥奪をめぐる現在進行中の議論

重罪による選挙権剥奪の支持者は、重大な罪を犯した個人は法を無視しており、したがって民主的なプロセスに参加すべきではないと主張します。賛成派は一般的に、投票権は民事上の利益であり、違法行為によって失われる可能性があると考えます。また、選挙権の剥奪は犯罪の抑止力として機能し、選挙制度の完全性を維持するとしばしば主張します。 

一方、反対派は、選挙権の剥奪は、個人による統治への参加の排除によって民主主義の原則を損なうものであり、人民による政府という概念と矛盾すると主張します。彼らはしばしば、刑期を終えた個人は、選挙権の回復を含め、社会に完全に復帰すべきだと主張します。また、選挙権の回復は、社会復帰や市民としての責任を促進し、社会への包摂感や投資意識を育めると主張しています。 

最近の傾向と改革 

近年、重罪前科者の選挙権回復に向けた動きが見られます。バージニア州やケンタッキー州などでは、回復プロセスを合理化するための改革が実施され、フロリダ州などでは選挙権の拡大を求める有権者の動きが見られます。こうした変化は、包括的な民主主義への参加の重要性と、重罪による権利剥奪に伴う長年の不公平に対処する必要性が認識されつつあるのを反映しています。 

合衆国における選挙権剥奪の現状

合衆国には、有罪判決を受けた犯罪者の選挙権に関する統一的な方針はなく、50州それぞれが独自の規則を定めています。これらの規則はいくつかの大まかな類型に分類されます: 

1. 制限なし:メイン州とバーモント州の2州は、選挙権の不可侵性を信じて、収監されている人の投票を認めています。 

2. 刑期終了後の回復: ハワイ州、イリノイ州、インディアナ州、マサチューセッツ州、ミシガン州、モンタナ州、ニューハンプシャー州、ノースダコタ州、オハイオ州、オレゴン州、ペンシルベニア州、ロードアイランド州、ユタ州の人たちは、仮釈放中や保護観察中であっても、刑務所から出所した時点で選挙権を取り戻します。 

3. 刑期と仮釈放の終了: カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、ニューヨーク州、サウスダコタ州は、収監期間と仮釈放期間が終了した場合のみ選挙権を回復させます(保護観察処分者は投票可能)。 

4. 刑期、仮釈放、及び保護観察の終了: アラスカ州、アリゾナ州、アーカンソー州、ジョージア州、アイダホ州、カンザス州、ルイジアナ州、メリーランド州、ミネソタ州、ミズーリ州、ネブラスカ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州、テキサス州、ワシントン州、ウェストバージニア州は、仮釈放と保護観察も含め、刑期をすべて終えた後にのみ選挙権を回復させます。 

5. 追加の待機期間または必要な措置: フロリダ州、アイオワ州、ケンタッキー州、バージニア州のように、追加の条件を課し、選挙権回復前に請願書の提出を義務付けている州もあります。フロリダ州では、2018年の修正案により、ほとんどの重罪犯が刑期を終えた時点で選挙権を回復しましたが、その後の法律では、刑事判決の一部として課されたすべての罰金と手数料の支払いが義務付けられました。ドナルド・トランプ前大統領はフロリダ州の住民であるため、彼の刑事判決に懲役刑が含まれず、前科に関連して課される罰金や手数料を支払えば、次期大統領選挙での投票が許可されます。 

6. 永久的な選挙権剥奪: アラバマ州、デラウェア州、ミシシッピ州、ネバダ州、テネシー州、およびワイオミング州を含むいくつかの州では、特定の重罪で有罪判決を受けた個人の権利を永久に剥奪していますが、これらの個人は、特定の法的手続きによって、赦免を求めたり、権利の回復を求めたりできます。 

各州の法律の完全な要約は、合衆国司法省がまとめており、こちら(https://www.justice.gov/d9/2024-01/voting_with_a_criminal_conviction_7.6.23.pdf)からアクセスできます。 

まとめ

重罪で有罪判決を受けた人が投票できるかどうかは、その人が居住する州によって異なります。全米各州の傾向として、有罪判決を受けた重罪犯の選挙権に対する制限は撤廃または緩和されつつありますが、選挙権の剥奪は、歴史的な差別的慣行によって複雑な争点となっています。 

前科者の選出される職への制限

前科があっても、合衆国大統領の職に立候補するのを禁止されるわけではありません。なぜなら合衆国憲法には、有罪判決を受けた犯罪者が国家の最高権力者に立候補するのを禁じているものは何もないからです。憲法には、(1)最低35歳、(2)生まれながらの市民、及び(3)14年以上の合衆国の住民、という限られた立候補資格しか定められていません。 

ただし、他の公職に立候補する権利には制限される場合があります。選挙権と同様、公職に立候補する権利も州法で定められているため、国内の各州によって異なります。また、選挙権と同様、公職に立候補する権利の制限は、重大な罪を犯した者は「堕落しており、政治家にふさわしくない」というイギリスの慣習法に端を発しますが、南北戦争後、人種差別の道具として使われるようになりました。 

現在、公職に就く権利に対する規制を緩和しようとする動きが全米で見られます。一般的に、この権利に対する現在の制限は以下の類型に分類されます: 

1. 終身禁止: 一部の州では、特定の重罪の前科を持つ個人に対して終身禁止を課しています。例えば、ミシシッピ州では、贈収賄、窃盗、偽証などの特定の犯罪で有罪判決を受けた人に対し、公職に就くのを永久に禁じています。 

2. 一時的資格剥奪: 多くの州では、仮釈放や保護観察も含め刑期を終えるまで、一時的に公職への立候補を禁止しています。例えば、フロリダ州では、重罪の前科を持つ者は、罰金、手数料、返還金の支払いを含む刑期を終えるまで公職に就くのが禁止されています。 

3. 条件付復権: 州によっては、特定の法的手続きによって資格回復を認めているところもあります。バージニア州のような州では、知事は、公職に立候補する権利を含め、重罪の前科を持つ個人の公民権を回復する権限を持っています。 

4. 役職別の制限: 州によっては、特定の種類の役職について、さらなる制限を設けている場合があります。例えば、州によっては、重罪の前科を持つ個人が、司法職や高度な公的信頼が必要とされる職務に立候補するのを禁止している場合があります。 

結論 

米国では、有罪判決を受けた犯罪者の選挙による公職への立候補が制限されており、法律的、倫理的、政治的な問題が複雑に絡み合っています。こうした制限は公職の品位を守り、国民の信頼を維持するのを目的としていますが、制度的不平等を永続させ、社会から疎外されたコミュニティの民主的参画を妨げるという意見もあります。全米の各州がこの複雑な問題について議論を続ける中、法律のあり方にも変化が生じる可能性があります。 

※この記事は法律上の助言を構成するものではなく、一般的な法的原則の一般的な概要のみを示しています。 これらの原則は、管轄地によって異なる場合があります。 ご自身の特定の状況については、弁護士に相談する必要があります。 この記事の公開によって弁護士と依頼人の関係が形成されません。

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