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日本製鉄・USスチール買収と「黄金株(ゴールデン・シェア)」
日本製鉄による約141億ドルでのUSスチール買収では、米国政府が「ゴールデン・シェア(Golden Share)」を取得したことが大きな注目を集めました。ゴールデン・シェアとは、配当や通常の株主としての経済的利益を持たない一方で、企業の重要な経営判断に対して拒否権などの特別な権限を付与する特殊な株式です。
今回、USスチールは米国政府にクラスG優先株1株を発行しました。この株式により、米国政府は財務省を通じて国家安全保障の観点から独立取締役を1名選任できるほか、工場の閉鎖や海外移転、本社移転、企業名の変更、大規模な海外投資や合併、国内事業に重大な影響を与える設備投資などについて拒否権を行使できるとされています。この仕組みは、米国内での鉄鋼生産や雇用を維持するとともに、日本製鉄が買収時に約束した投資計画の履行を確保することを目的としています。
ゴールデン・シェアを巡る議論
一方で、この制度については賛否が分かれています。批判的な意見としては、米国政府が民間企業の経営にこれほど強い影響力を持つことは極めて異例であり、企業経営の柔軟性を損なう可能性があると指摘されています。また、国家安全保障ではなく経済保護主義や政治的判断のために利用される懸念や、今後の外国企業による対米投資を萎縮させる可能性も指摘されています。
外国企業への影響
今回の事例は、米国政府が国家安全保障上重要と考える産業において、外国企業による買収に対する統制を強化する姿勢を示したものといえます。特に鉄鋼、防衛、エネルギー、インフラなどの分野では、対米外国投資委員会(CFIUS)による審査に加え、ゴールデン・シェアや取締役会への関与、一定期間の投資・雇用維持義務など、さまざまな条件が課される可能性があります。 外国投資家にとっては、企業を買収しても必ずしも経営権を自由に行使できるとは限らず、規制の不透明性や政治的リスクも考慮する必要があります。そのため、今後米国の戦略的重要産業への投資を検討する際には、CFIUSをはじめとする規制や政府との協議を十分に見据えた投資戦略を立てることが重要となります。
結論
USスチール買収で導入されたゴールデン・シェアは、米国が国家安全保障上重要な産業への外国投資に対して新たな統制手法を採用した象徴的な事例といえます。今後、同様の仕組みが他の戦略産業にも広がる可能性があり、外国企業は従来以上に政府による規制や経営への関与を前提として投資判断を行う必要があります。

アメリカ合衆国弁護士(ワシントンD.C.・ユタ州)
元最高法務責任者・元取締役
企業買収では、株式取得が経営権取得を意味するのが一般的です。しかし、今回のUSスチール買収は、国家安全保障を理由として政府が一定の経営判断に拒否権を持つという、新たな投資環境を象徴する事例となりました。
実務では、米国の戦略的重要産業への投資に際し、買収契約の条件だけでなく、CFIUSによる審査や政府との協議、買収後のガバナンス体制まで含めた検討が不可欠です。外国企業は、法的適法性に加え、政治・規制リスクも重要な投資判断要素として織り込み、長期的な事業戦略を構築する必要があります。

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