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米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は、NAFTAに代わる北米の自由貿易協定として2020年7月1日に発効しました。2026年には協定の見直しが行われましたが、3か国は新たな16年間の延長について合意に至りませんでした。ただし、これによってUSMCAが失効したわけではありません。現在も協定は有効であり、優遇関税、通関手続、投資、労働、紛争解決などのルールは引き続き適用されています。
USMCAでは、発効から6年後に3か国が共同で協定を見直し、全加盟国が同意すれば、その時点からさらに16年間延長する仕組みが設けられています。2026年の見直しでは、カナダとメキシコが延長を支持した一方、米国は現行の内容での延長に同意しませんでした。そのため、今後は当初の協定期間が終了する2036年まで、原則として毎年共同見直しが行われます。
もっとも、毎年の見直しがUSMCAの「毎年の更新」を意味するわけではありません。3か国が延長に合意しなくても、その年に協定が失効するものではなく、合意がないまま推移した場合には2036年7月1日に終了します。また、見直しの場で議論された内容が自動的に新しいルールになるわけでもありません。協定を改正するには、3か国による書面での合意と、それぞれの国内法上必要な手続が必要です。
現在の交渉では、自動車の原産地規則、鉄鋼・アルミニウム、経済安全保障、労働、農業など幅広い分野が議論されています。特に日本企業への影響が大きいと考えられるのが、自動車とその部品に関する原産地規則です。
USMCAの優遇措置を受けるため、乗用車や小型トラックには原則として75%の北米域内原産割合が求められています。さらに、エンジン、トランスミッション、車体・シャシー、車軸、サスペンション、ステアリング、一定の先進バッテリーなどの主要部品にも個別の原産地要件があります。このため、完成車メーカーだけでなく、電子部品、半導体、バッテリー、鋳造品などを供給する日本企業にも影響が及ぶ可能性があります。
米国は、北米での生産を拡大し、域外の国への依存を減らす方向で原産地規則の見直しを検討しています。半導体、回路基板、ディスプレイ、永久磁石、重要鉱物、バッテリーなどが主な検討対象として挙げられており、電気自動車やソフトウェアを重視した車両に対応するため、主要部品の範囲を変更する可能性も示されています。ただし、これらは現時点では政策上の検討事項であり、新しい法的ルールとして成立したものではありません。
さらに注目されるのが、現在の「北米産」という基準に加え、「米国産」の部品や材料を一定割合使用する要件を導入する可能性です。現在は米国、カナダ、メキシコのいずれで生産されたかよりも、北米域内の原産品であるかが重要ですが、米国産の割合が新たに求められれば、企業はサプライチェーンの各段階で生産国をより細かく把握する必要が生じます。もっとも、具体的な割合や協定文はまだ合意されていません。
北米域外から調達する部品や材料の扱いも重要です。米国は、非加盟国からの部品などを利用してUSMCAの恩恵を受ける、いわゆる「フリーライド」を防ぎ、戦略的に重要な物資を北米域内で調達する方向性を示しています。そのため、将来的には域内原産割合の引上げ、特定部品への制限、原産地確認の厳格化などが検討される可能性があります。
日本企業の場合、米国、カナダ、メキシコにある工場で生産された製品は一定の要件を満たせばUSMCAの対象となり得ます。一方、日本から輸入する部品や、中国をはじめとする北米域外から調達する材料については、今後のルール次第でUSMCAの優遇措置を受ける製品への使用が難しくなる可能性があります。
企業にとっての問題は、USMCAが直ちに失効することではなく、今後のルールを予測しにくい状況が続く点にあります。自動車工場、バッテリー工場、部品工場などへの投資は、建設から稼働まで数年を要し、その後10年以上にわたり操業する場合もあります。毎年USMCAのルールが交渉の対象になれば、現在の調達体制が将来も経済合理性を維持できるのか判断しにくくなります。
実際にルールが変更されなくても、企業が投資を延期したり、契約期間を短くしたり、複数の調達先を確保したりする可能性があります。反対に、将来の規制強化を予想して北米での生産を急速に拡大したものの、想定した規制が導入されなければ、不要な投資負担を抱えるおそれもあります。そのため、現在のルールだけを前提とするのではなく、複数のシナリオに対応できる体制が重要になります。
日本企業としては、まず自社製品のうちUSMCAの優遇措置を利用している製品を把握し、優遇対象から外れた場合にどの程度の関税負担が生じるのか確認する必要があります。特に自動車関連企業では、バッテリー、半導体、電子部品、磁石、鉄鋼、アルミニウムなどについて、北米域外への依存度を個別に確認することが重要です。
また、サプライチェーン全体で原産地情報を把握できる体制も求められます。取引先からの原産地申告、部品表やコスト情報、原産国データなどを整備し、米国、カナダ、メキシコの各拠点と日本本社が共通の基準で情報を管理できる体制を構築する必要があります。価格や品質に問題がない取引先であっても、部品の原産地を十分に証明できなければ、将来的には取引上のリスクとなる可能性があります。
新たな契約や投資については、USMCAの変更に対応できる柔軟性を確保することも重要です。法令変更時の対応、追加関税やコンプライアンス費用の負担、原産地情報の提供義務、代替調達先への変更などを契約上あらかじめ検討する方法があります。投資判断についても、現行ルールが続く場合、北米産要件が強化される場合、米国産要件や第三国からの調達制限が導入される場合など、複数のシナリオを想定して検討する必要があります。
2026年の見直しによってUSMCAそのものが終了したわけではなく、現在も北米貿易の基本的な法的枠組みとして機能しています。一方、米国が16年間の延長に同意しなかったため、USMCAは継続的な交渉の対象となりました。北米を一体的な生産・調達拠点として活用している日本企業にとっては、今後の交渉を継続的に確認するとともに、原産地情報をより正確に把握し、ルール変更に応じて調達先や投資計画を調整できる体制を整えておくことが重要です。

2026年の共同見直しでは、米国がUSMCAを現行内容のまま延長することに同意しなかったため、3か国による延長のための全会一致は成立しませんでした。しかし、これをもって北米の自由貿易体制が終了したと捉えるのは適切ではありません。USMCAは現在も有効であり、既存の優遇関税や原産地規則なども引き続き適用されています。今後は年次の共同見直しが行われますが、それ自体によってUSMCAの内容が変更されるわけではありません。協定の改正には、別途、3か国の合意と各国で必要な国内手続が求められます。
一方、米国が現行内容での延長に同意しなかった以上、協定の延長や改正をめぐる交渉が継続し、企業にとって将来のルールを予測しにくい状況が続く可能性があります。
日本企業にとって特に重要なのは、自動車を中心とする原産地規則です。米国とメキシコの交渉では、自動車の原産地規則、鉄鋼・アルミニウム、経済安全保障などが具体的な議題となっており、米国政府は北米域外からの重要な部品や材料への依存を抑える政策方向も示しています。ただし、これらは現時点では交渉上の政策方針を含み、新たなUSMCA上の義務として確定したものではありません。
日本企業は、北米に工場があるという理由だけで影響が限定されるとは考えず、日本や中国など北米域外から調達する半導体、バッテリー関連部材、電子部品、重要鉱物などについて、現在の原産地規則への影響に加え、今後規則が強化された場合の影響もサプライチェーン全体で確認する必要があります。
実務上は、将来のルール変更を一つに予測して調達先や生産拠点を変更するより、複数の可能性に対応できる体制を整える方が重要です。部品ごとの原産国や調達経路を把握し、取引先から必要な原産地情報を取得できる仕組みを整えるとともに、新規契約では法令変更、追加関税、原産地情報の提供、代替調達先への切替えなどに対応できる条項を検討する必要があります。
北米で長期的な設備投資を行う企業にとって、USMCAの見直しは単なる関税の問題ではありません。今後の生産拠点、調達先、契約条件を含むサプライチェーン戦略全体に関わる問題として、継続的に検討すべきテーマです。
※本記事は法的助言を提供するものではなく、一般的な法制度・実務の概要を紹介するものです。具体的なルールや対応は州その他の管轄によって異なる場合があります。個別の状況については、弁護士などの専門家にご相談ください。本記事の掲載によって弁護士と依頼者の関係が成立するものではありません。


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