喫煙の有無で健康保険や生命保険料に差を生じさせるのは合理的かもしれませんが、遺伝子情報に基づいて保険料に差をつけたり、雇用上の判断を下すのはどうでしょうか?遺伝子情報の解析はこの10年で飛躍的に進み、遺伝子情報により様々な疾病の治癒を目指す試みがされるのと同時に、一定の病気にかかる可能性の高い遺伝子の分析情報で保険契約上不利になるとの虞も議論されていました。
「健康保険及び雇用に関する遺伝子情報に基づく差別禁止法」(Public Law 110-233, 110th Congress: An Act to prohibit discrimination on the basis of genetic information with respect to health insurance and employment. 以下「遺伝子情報差別禁止法(Genetic Information Nondiscrimination Act of 2008又はGINA)」)は、上院で全員賛成、下院で賛成414、反対1との圧倒的な数字で可決された後、ジョージ・W・ブッシュ大統領が、2008年5月21日に署名しました。これまでも多くの州で同様の法律が可決されていましたが、遺伝子情報差別禁止法により、連邦レベルでも差別が禁止されます。
遺伝子情報差別禁止法の規定する、遺伝子情報(”genetic information”)とは、
- 本人の遺伝子テスト
- 家族の遺伝子テスト
- 家族の病歴
に関わる情報を意味しますが、性別及び年齢の情報は含みません。遺伝子テスト(“genetic test”)とは、遺伝子型、突然変異、若しくは染色体変化を検知する、人のDNA、RNA、染色体、タンパク質、又は代謝物の分析を意味しますが、遺伝子型、突然変異、若しくは染色体変化を検知しない、タンパク質、又は代謝物の分析は含みません。雇用主、雇用期間、労働団体等は、遺伝子情報に基づく従業員の採用、解雇及びその他の雇用に関する報酬、条項、条件、特権上の差別的行為が禁止されます。また、雇用主による従業員の遺伝子情報の要求、入手、又は購入が禁止されます。
本稿においては、簡単に遺伝子情報差別禁止法の主旨を説明しましたが、実際に当該法律が適用される可能性のある米国において業務を展開する企業は、本法及び今後制定されるであろう様々な規定及び判例を詳細に検討し、従業員の採用及び雇用にあたり、遺伝子情報差別禁止法に抵触しないよう、従業員ハンドブックの変更、従業員ファイルの保存、従業員の遺伝子情報の取扱い等に関して注意が必要です。
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