ビザ免除プログラム vs. B-1/B-2ビザ

その他

世界的に有名な劇作家の言葉を借りると、「ESTAか、ESTAでないか、それが問題だ…」。[1]  言い換えると、合衆国渡航希望の外国人にとって、国に合法的に入国し、計画した期間滞在するための最善の選択肢は何なのでしょうか。(B-1/B-2ビザなどの)非移民ビザの取得でしょうか、それとも合衆国の電子渡航認証システム(Electronic System for Travel Authorization:ESTA)を介したビザ免除プログラムの利用でしょうか。その問いへの答えは、それぞれの渡航の場面に特有な多くの要因と状況に依拠します。この記事では、外国人渡航者が短期的に米国に入国する許可を求め、手に入れるための非常に一般的な2つの選択肢の基本的な差異を概説します。[2]

背景

100年以上の間、大多数の外国人渡航者と訪問者が合法的に入国し、一定期間滞在するための唯一の現実的な解決策は、ビザの取得でした(非移民ビザの一例を挙げると、ビジネスまたは余暇旅行のための「B」ビザ、あるいは認可された機関で学ぶための「F」ビザなど)。しかし、適切なビザを申請し取得する過程と手続きは、いくつかの要因に左右され、多くの場合時間を要するものであり、一定の状況では3ヶ月以上かかります。実に書類が多く、時間のかかる性質であり、適切な非移民ビザを取得する過程は、特に短期休暇や出張目的の合衆国訪問志望者にとって、計画と予定を立てる上で頭痛の種になるかもしれません。

ですが、もし合衆国訪問の予定のある人が、(比較的)短期の休暇、観光、または出張目的で訪れたいと望む場合、より便利で実行可能な選択肢はビザ免除プログラムかもしれません。これは合衆国が主導し、合衆国国務省との協議の上で合衆国国土安全保障省(DHS)により運営されています。

本記事ではそれぞれの選択肢について検討し、いくつかの基本的な法的見解を示します。いかなる合衆国への渡航見込みのある人も、当然ながら有効なパスポートが必要です(そしていかなる場合でも、ビザ免除プログラムの利用のためにeパスポートが絶対に必要となります)。

ビザ

20世紀の大半と1980年代後半まで、他国の居住者が合法的に合衆国を訪問するための(大半の状況において)唯一の実行可能な選択肢は、ビザの取得でした。ビザは、滞在が一時的で明確な出国日がある場合に限り、所持者に特定の目的で合衆国への入国及び訪問を可能にする許可書です。

適切な非移民ビザの取得(そしてそれに伴うすべて)は、短期休暇や長期休暇、または学業や仕事目的での数年間にわたる滞在であれ、合法的に合衆国を訪問するための有効で強力な選択肢です。実際にほとんどの場合、このようなビザは大半の渡航目的を果たすための唯一の選択肢となります。いろいろなビザの種類と選択肢は多岐にわたるため、本記事では深く掘り下げられません。数回の短期訪問よりも長い期間での合衆国滞在を計画、または予定している訪問見込みのある外国人は、計画している訪問、または滞在に適切なビザを取得するために必要な段階を踏むよう考慮するべき、と言えば十分でしょう。

適切な非移民ビザの下で合衆国に入国する訪問者は、たとえ特定の渡航動機があっても(例えば、F-1ビザの場合、認可された就学のための教育機関に在籍している間)、合衆国に長期の滞在と残留が許可されます。そうした動機には、一定の制限や条件が伴います。例えば、F-1ビザで合衆国に滞在している学生は、在学中に校外での就労ができず、一方で「H」ビザ(例えば、H-1B、 H-1B1、H-2A、H-2B、H-3、等)で滞在する被雇用者は、予定された雇用主からのスポンサーが必要となり、一定期間のみ滞在が許されます。

おそらく、渡航者の間で最も利用される非移民ビザは、ビジネスまたは余暇渡航用の「B」ビザ(B-1 または B-2)かもしれません。適切な「B」ビザがあれば、渡航者は観光目的でも、合衆国企業や知り合いを訪問するなどの一時的なビジネスに従事する目的でも、合衆国訪問が可能です。B-1またはB-2ビザは、渡航者の国籍に応じて、長期間有効のままです(日本人渡航者の場合は10年間)。B-1またはB-2ビザは一定期間有効ですが、滞在期間を保証するものではありません。そのため、渡航者は合衆国到着時に受け取る出入国記録情報(I-94)に従います。とにかく、いかなる訪問であっても、最初に認められる滞在期間の最長は6ヵ月であり、これは渡航者のI-94出入国記録に記載されます。これは現在、物理的な紙面ではなく、一般にアプリケーション(CBP Oneモバイルアプリ)やウェブサイト(https://i94.cbp.dhs.gov/I94/#/home)を介して電子的に作成・管理されます。6ヶ月の上限の延長は可能ですが、最初の期間が切れる最低でも45日前までに申請し、慎重に行わなければなりません。この場合でも、延長が保証されるわけではありません。

B-1 または B-2ビザの取得には、時間のかかる手続きとなり得るDS-160を含む、かなりの書類対応が求められます。渡航者はまた(最低でも写真、DS-160の確認ページ、ビザ支払いの証明、面接予約通知書の印刷などを含む)裏付け資料を提出する必要があります。さらに渡航者は、詳細な訪問理由や渡航計画の作成、雇用関連書類、及び/または合衆国にいる家族、友人、または企業からの招待状も求められるかもしれません。これらの書類は「非移民の意思」を証明し、渡航者が合衆国訪問を終えた後に母国に帰る十分な理由があると示すために重要です。たとえすぐには提出を求められなくとも、これらの書類をすべて用意し、提出する計画を立てるのが望ましい取り組みです。また、申請料(通常160ドル [3])がかかります。DS-160の提出とビザ申請料の支払い後、申請者は合衆国大使館または地方の領事館での面接を予約する必要があります。そうした面接の時間は必ずしも確実なものではなく、申請者の予想以上に長い待ち時間を必要とするかもしれません。

(その他のあらゆるビザの申請過程と同じく)B-1/B-2ビザ申請過程の要点は、時間がかかり、集中的で、完了と承認にかかる時間の予想が相手方によるという点です。これらはビザ免除プログラムが誕生した理由のほんの一部です。

ビザ免除プログラムと渡航認証電子システム

1986年、合衆国連邦議会は(現在)40か国からの市民が、ビジネスや観光という限られた目的のために、最大90日間ビザなしで合衆国に渡航できるようにする狙いで、ビザ免除プログラムを制定した法案を可決しました。署名国とのこの協定は互恵的であり、それらの40か国は、合衆国市民および国民がビジネスや観光目的で自国での同様の期間のビザなし渡航を許可しなければなりません。合衆国税関国境警備局のビザ免除プログラム(https://www.cbp.gov/travel/international-visitors/visa-waiver-program)を参照ください。日本は1988年12月にこの措置を施行した、(英国に次ぐ)2番目の署名国です。[4] 

ビザ免除プログラムの下で許可されている渡航の目的は、上記で簡潔に説明されたB-1/B-2ビザと同様です。一例を挙げると、観光(休暇や家族、あるいは友人の訪問等)、医療措置、またはビジネス(事業仲間との相談や会議への出席、短期研修あるいは契約交渉等)などが含まれます。

ビザ免除プログラムにおける渡航認証は、通称ESTAと呼ばれる、電子渡航認証システムを通して行われます。ESTAは主にビザ免除プログラムにおける合衆国への訪問者の適性を決定するための、コンピューター化された自動システムです。ESTAを介して合衆国への渡航許可を受け取っても、渡航者の合衆国への入国許可の判断ではないと覚えておくことが非常に大切です。合衆国税関・国境取締局 (CBP)の職員が、渡航者の到着後に入国可否の決断を下します。言い換えれば、コンピューター化されたシステムは、訪問者が実際合衆国に入国できるかどうかの最終的な判断は行いません。ESTAは単なる情報センターであり、多忙が予測される渡航者のスケジュールを円滑に進めるために、大量の情報を素早く効率的に分類する方法にすぎません。そしてESTAの機能には目を見張るものがある一方で、実際合衆国に入国するかどうかを最終的に判断するのはCBPの職員です。CBP職員は、それを通関地(通常は合衆国の空港)で行います。

ESTAを通した申請手続きは、特に従来のビザ申請の手間のかかる過程と比べると比較的簡易です。しかし第一に、渡航見込みのある人は有効なeパスポート(安全が強化された電子チップが埋め込まれたもの)を所持しなくてはなりません。それには特有の国際的シンボルが記されているため、渡航者は自分がeパスポートを持っていると分かります。

eパスポートを利用して、渡航者は上記のWebサイトからESTAに登録し、経歴やその他のビザ免除プログラム資格に関する質問回答を含む、オンライン申請書を完了します。概して、その手続きは一般的に1時間以内で完了し、特に従来のビザに比べれば申請料もかなり少額で、手続きと認証料金の合計でわずか14ドルしかかかりません。ESTA申請は、渡航前であればいつでも提出できます。渡航者が渡航計画を準備し始めた直後、または航空券を購入する前の申請が、賢明な取り組みといえるでしょう。渡航者は、最低でも渡航の72時間前に申請をすべきです。

ESTAとB-1/B-2ビザの違いに関する最後の注意事項

ESTAは2年間有効ですが、合衆国に滞在可能な最大日数は90日間までであり、延長はできないと念頭に置く必要があります。これは前出のように、延長の可能性があるB-1/B-2ビザとは異なります。もう一つの大きな相違点は、B-1/B-2ビザがグリーンカードではなく、渡航者に合衆国永住権を与えるものではない一方で、B-1/B-2ビザで合衆国に入国し、その後合衆国内でのビザステータス変更が認められています。これはESTAでは認められていません。ESTAは、渡航者の短期間の合衆国滞在のみを意図しており、その資格変更をしないとの表明になります。最後に、すでに現在有効なB-1/B-2(またはその他のいかなるビザ)を所持している場合、ESTAの申請はできません。

結論

この記事冒頭の質問への答えは複雑で、諸条件に依拠します。状況によっては、渡航者が比較的容易なESTAを利用する代わりに、B-1/B-2ビザを申請しなければならない場合もあるかもしれません。しかし、短期の簡単な余暇渡航や出張であれば、ESTAの利便性と融通性により、多くの合衆国渡航志望者にとってESTAは、しばしば一番の選択肢になりそうです。どのような選択をするにせよ、最終的にはどちらも大多数の渡航者に対して機能します。両方の選択肢が存在し、実行可能である事実は、今日の渡航者にとって大きなメリットです。


[1] ウィリアム・シェイクスピア『ハムレット』(第三幕、第一場)

[2] この記事は、主にビザ免除プログラムとB-1/B-2ビザなどの非移民ビザの比較について説明します。 一般的に雇用や家族のスポンサーを必要とする移民ビザは、より永続的であり、合衆国の合法的永住者または合衆国市民になるという共通の最終目標があるため、ビザ免除プログラムによる渡航とは一般的に比較できません。

[3] 2023年6月17日より、申請料が通常185ドルに引き上げられました

[4] ビザ免除プログラムで入国が許可されているのは40か国のみで、そのリストは https://www.dhs.gov/visa-waiver-program-requirement から参照ください。また、2011年3月1日以降にイエメン、イラク、イラン、北朝鮮、シリア、スーダン、ソマリア、リビアに渡航歴のあるまたは滞在中の旅行者は、ESTAまたはビザ免除プログラムを利用できません。 その場合でも、B-1またはB-2ビザを申請できます。

※この記事は法律上の助言を構成するものではなく、一般的な法的原則の一般的な概要のみを示しています。 これらの原則は、管轄地によって異なる場合があります。 ご自身の特定の状況については、弁護士に相談する必要があります。 この記事の公開によって弁護士と依頼人の関係が形成されません。

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