米国訴訟で会社が「証言する」――日本企業が知っておくべきRule 30(b)(6)

米国子会社がdepositionの対象であっても、問題となる製品の設計、品質判断、予算又は承認が日本本社で行われている場合があります。米国子会社が日本本社からどの情報を合理的に取得できるかは、企業関係と事件の事情によって異なります。

「別法人だから本社の情報は一切調べない」と早期に決めるのは危険です。共通役員、日常的な報告、文書へのアクセス、親会社による承認、過去の情報提供などをtrial counselと確認する必要があります。反対に、必要性を検討せず親会社の情報をすべて収集すると、争点と費用を不必要に拡大する可能性もあります。

米国の民事訴訟では、相手方が会社そのものをdeposition(宣誓供述録取)の対象にする場合があります。連邦民事訴訟規則Rule 30(b)(6)に基づく手続です。

会社が訴訟当事者になると、社長や事件担当者が個人として質問を受けるだけではありません。相手方は、会社に対して質問分野を通知し、会社は各分野について組織を代表して回答する証人を指定しなければなりません。指定された証人は、自分が個人的に知っている範囲に限らず、会社が把握している情報又は合理的に取得できる情報を調査し、会社として証言します。

日本本社と米国子会社の間で情報や意思決定が分散している企業では、この準備が特に難しくなります。証人が「当時の担当者ではありません」「日本本社が決めたので分かりません」と答えるだけでは、会社として十分に準備したとは評価されないおそれがあります。

個人のdepositionとは何が違うのか

通常の個人depositionでは、相手方が特定の役員、従業員、元従業員などを指定し、その人が個人的に知っている事実を質問します。Rule 30(b)(6)では、相手方は個人ではなく会社又は団体を指定します。

通知には、質問する事項が合理的に特定されていなければなりません。会社は通知された事項を検討し、証言する役員、取締役、従業員その他の適切な人物を一人又は複数指定します。一人ですべての事項を担当する必要はありません。設計については技術部門、品質問題については品質管理部門、文書保存についてはIT又は法務部門の担当者を指定するなど、分野を分ける場合もあります。

重要なのは、最も詳しい人物を探して当日に出席させるだけでは足りない点です。会社には、指定証人が組織として回答できるよう合理的な調査と準備を行う義務があります。指定証人が事件当時その部署にいなかった場合でも、関係文書を読み、現旧担当者から聞き取りを行い、社内の情報を集約して証言する場合があります。

裁判所は、この準備義務が指定証人の個人的知識を超えると繰り返し説明しています。文書や過去の証言を確認し、現旧担当者その他の合理的に利用可能な情報源を調査しなければならない場合があります。Brazos River Authority v. GE Ionics, Inc., 469 F.3d 416, 432–33 (5th Cir. 2006); United States v. Taylor, 166 F.R.D. 356, 361–62 (M.D.N.C. 1996); QBE Insurance Corp. v. Jorda Enterprises, Inc., 277 F.R.D. 676, 688–90 (S.D. Fla. 2012).

通常の個人depositionRule 30(b)(6) deposition
特定の個人を指定する会社又は団体を指定する
個人の知識や記憶が中心組織が知る情報又は合理的に取得できる情報が中心
証言者は相手方が名指しする原則として会社が証言者を選ぶ
「自分は知らない」が正当な場合もある他部署や資料を調査して準備すべき場合がある
個人として証言する指定事項について会社を代表して証言する

通知を受けた後に必要な対応

Rule 30(b)(6)の通知を受けた企業は、証人を一人選んで弁護士との練習を始める前に、質問事項と社内情報の所在を整理する必要があります。

1.各質問事項の範囲を確認する

通知事項が曖昧、重複又は過度に広範な場合は、相手方と範囲を協議します。2020年改正後のRule 30(b)(6)は、通知を出した側と組織側に対し、質問事項について誠実に協議するよう求めています。会社側は、通知を受けたまま放置せず、対象期間、製品、部署、地域、情報の種類などを早期に確認すべきです。

2.Local Rules、担当裁判官の運用及び事件別命令を確認する

Rule 30(b)(6)は出発点にすぎません。各連邦地方裁判所のLocal Rules、担当裁判官のstanding orderやindividual practices、当該事件のscheduling order又はdiscovery orderにより、追加の期限、topic数、証言時間、協議手続などが定められる場合があります。

ユタ連邦地方裁判所のDUCivR 30-2は、その一例です。同規則は原則として、Rule 30(b)(6)の通知又はsubpoenaをdeposition予定日の28日前まで、かつdiscovery cutoffの45日前までに送達するよう求めています。裁判所がgood causeを認めた場合又は当事者が合意した場合を除き、subpartを含めて20 topicsを超えることはできず、全指定証人の証言時間は合計7時間までです。通知を受けた組織は原則として7日以内に書面で異議を述べ、解決しない争いはDUCivR 37-1に従って処理します。これはユタ連邦地方裁判所に固有の規則であり、他の裁判所に同じ要件があるとは限りません。

3.情報源を特定する

質問事項ごとに、次の情報源を整理します。

  • 関係部署と担当者
  • 元担当者及び退職者
  • 電子メール、Teamsその他の社内通信
  • 稟議書、会議議事録、承認記録
  • 製品設計、試験、品質管理の資料
  • 顧客からの苦情及び事故報告
  • 日本本社と米国子会社の定期報告
  • 文書保存規程及びlitigation hold
  • 過去のdeposition、宣誓供述書、裁判所提出書類

会社の回答が過去の文書や他の証人の証言と矛盾しないかも確認します。

4.適切な証人を指定する

肩書が最も高い人が最適とは限りません。対象事項を理解し、必要な資料を読み、英語又は通訳を介して正確に回答できる人を選ぶ必要があります。

一人に多数の事項を集中させると、準備の負担が大きくなり、回答の正確性が低下します。他方、証人を増やせば、証言間の不一致、費用、準備時間も増えます。質問事項と情報の所在を踏まえた分担が必要です。

5.会社としての回答を準備する

証人は暗記した文章を読み上げるために準備するのではありません。質問の意味を理解し、会社が確認した事実、確認できなかった範囲、情報源、必要な限定を自分の言葉で正確に説明できなければなりません。

証人本人が当時の出来事を経験していない場合は、個人的知識による回答と、会社の資料・聞き取りに基づく回答を区別して説明できるようにします。

日本企業で生じやすい問題
日本本社と米国子会社の情報が分かれている

米国子会社がdepositionの対象であっても、問題となる製品の設計、品質判断、予算又は承認が日本本社で行われている場合があります。米国子会社が日本本社からどの情報を合理的に取得できるかは、企業関係と事件の事情によって異なります。

「別法人だから本社の情報は一切調べない」と早期に決めるのは危険です。共通役員、日常的な報告、文書へのアクセス、親会社による承認、過去の情報提供などをtrial counselと確認する必要があります。反対に、必要性を検討せず親会社の情報をすべて収集すると、争点と費用を不必要に拡大する可能性もあります。

合議制と責任者の説明

日本企業では、稟議、関係部署との調整、会議、上位者の承認を経て意思決定する場合があります。その過程を単に「会社全体で決めました」と説明すると、米国の弁護士や陪審員から、誰が何を知り、誰が決定したのかを隠しているように受け取られるおそれがあります。

誰が提案し、どの部署が審査し、誰が承認権限を持ち、各時点でどの情報が共有されていたかを具体的に整理する必要があります。

日本語資料と英訳

訴訟で作成された英訳が日本語原文の意味を完全には伝えていない場合があります。例えば、「検討する」「対応する」「問題」「不具合」「安全を確認した」といった日本語は、文脈により意味の幅があります。

証人が英訳だけを読んで準備すると、日本語原文との違いを反対尋問で追及される可能性があります。重要文書については、原文、提出済みの英訳、証人が理解している意味を照合すべきです。社内用語、役職名、品質管理用語の訳語も統一します。

通訳を介する証言

英語で日常会話ができても、複雑な技術、時系列又は社内手続を正確に証言するには通訳が必要な場合があります。通訳を利用するかは、本人の希望だけでなく、正確性、証言時間、使用言語、重要文書の言語などを考慮してtrial counselと決めます。

通訳を利用する場合、証人は質問を最後まで聞き、通訳が訳し終わってから回答します。訳が不正確であれば、その場で指摘します。長い回答は訳の脱落や意味の変化を招きやすいため、短く区切る練習も有効です。

「分からない」と回答する前の調査

知らない事項について推測してはいけません。しかし、会社の指定証人が「分かりません」と答える前に、会社が合理的な調査を行ったかが問われます。

誰に確認したか、どの文書を調べたか、なぜ情報を取得できなかったかを整理しておく必要があります。個人として知らないのか、会社として調査しても確認できなかったのかでは意味が異なります。

会社がその情報を実際に保有せず、他の情報源から合理的に取得できず、入手可能な情報をすべて確認しても十分な知識を得られない場合、その事項に関する準備義務は終了し得ます。QBE Insurance, 277 F.R.D. at 690. ただし、閲覧可能な記録や利用可能な証人を十分に調査しないまま「分からない」と回答してよいという意味ではありません。

準備不足が招くリスク

指定証人の準備が不十分な場合、相手方は追加deposition、費用負担又は裁判所の介入を求める可能性があります。事情によっては、弁護士費用、証拠の制限その他のdiscovery sanctionが問題になります。会社が手元の記録を調査せず、利用可能で、知識を有し、容易に特定できる証人を指定しなかった場合、準備不足の証人を出した行為が実質的な不出頭として扱われる可能性もあります。Resolution Trust Corp. v. Southern Union Co., 985 F.2d 196, 197–98 (5th Cir. 1993). ただし、不完全な回答が常に不出頭になるわけではなく、会社の調査内容、より適切な情報源の有無、相手方への不利益その他の事情が考慮されます。

また、30(b)(6)証言は、summary judgmentやtrialで会社に対して利用され得ます。ユタ州を含む第10巡回区では、30(b)(6)証言は撤回不能なjudicial admissionではなく、evidentiary admissionとして扱われます。証言は訂正、説明又は補足できますが、合理的な説明のない重要な矛盾は、反対尋問や後の証拠を採用するかという判断に影響し得ます。Vehicle Market Research, Inc. v. Mitchell International, Inc., 839 F.3d 1251, 1260–61 (10th Cir. 2016). 会社が後から異なる説明や証拠を提出すれば、なぜ指定証人がその情報を知らなかったのか、なぜdeposition前に調査しなかったのかを追及されます。

準備不足は手続上の制裁だけでなく、会社の信用性にも影響します。製品安全、事故対応、文書保存などを会社の代表者が説明できなければ、相手方は「会社は自らの事業や安全管理を把握していない」と主張する可能性があります。

証人準備で行うべき作業

適切な準備には、単なる質疑応答の練習以上の作業が必要です。

  • 通知事項ごとの情報源と証言範囲を一覧化する
  • 証人が確認した資料と聞き取り先を記録する
  • 重要な時系列と意思決定経路を整理する
  • 日本語原文と提出済み英訳を照合する
  • 過去の証言、申立書、interrogatory responseとの整合性を確認する
  • 個人的知識と会社として取得した知識を区別する
  • 不明な事項を発見した場合の追加調査手順を決める
  • 通訳を含めた模擬depositionを行う
  • 長く曖昧な回答、推測、絶対的な断定を避ける
  • 質問が通知事項の範囲内かをtrial counselが判断できるよう準備する

弁護士は証人へ虚偽の回答や会社に都合のよい説明を教えるのではありません。目的は、会社が合理的に調査した事実を、証人が正確かつ一貫して説明できるようにする点にあります。

経営陣・法務担当者のためのチェックリスト

Rule 30(b)(6)の通知を受けた場合、少なくとも次を早期に確認すべきです。

  1. 回答期限とdeposition予定日を確認したか
  2. 米国trial counselへ通知全文を直ちに共有したか
  3. 各質問事項の対象期間、製品、法人、部署を特定したか
  4. 曖昧又は過度に広い事項について協議を開始したか
  5. Local Rules、担当裁判官の運用及び事件別命令を確認したか
  6. 日本本社への情報照会が必要か検討したか
  7. 関係資料がlitigation holdの対象になっているか確認したか
  8. 現旧担当者、情報管理者及び意思決定者を特定したか
  9. 一人又は複数の証人の分担を検討したか
  10. 日本語資料と英訳の整合性を確認したか
  11. 通訳利用の必要性を早期に判断したか
  12. 会社の過去の説明や提出書類と矛盾がないか確認したか
  13. 追加調査と模擬depositionの時間を確保したか

まとめ

Rule 30(b)(6)は、会社について最も詳しい人を一人出席させるだけの手続ではありません。会社が通知事項を調査し、適切な証人を指定し、組織として回答できるよう準備する制度です。

日本企業が米国訴訟に関与する場合、日本本社と米国子会社、複数部署、現旧担当者、日本語資料、通訳をまたいだ準備が必要になる可能性があります。通知を受けてから証人を選ぶまでの初期対応が遅れると、情報収集と証人準備の時間が不足します。

会社の法務担当者は、米国trial counselと早期に協議し、質問事項、情報源、証人、使用言語を整理すべきです。十分な準備は、discovery上の義務を果たすだけでなく、会社の説明が米国の裁判官、相手方及び陪審員へ正確に伝わるためにも重要です。

主要資料
  • Federal Rule of Civil Procedure 30(b)(6), Depositions by Oral Examination
  • 2020 Advisory Committee Note to Rule 30(b)(6)
  • DUCivR 30-2, Notice or Subpoena Required for Depositions Under Fed. R. Civ. P. 30(b)(6)
  • Brazos River Authority v. GE Ionics, Inc., 469 F.3d 416, 432–33 (5th Cir. 2006)
  • QBE Insurance Corp. v. Jorda Enterprises, Inc., 277 F.R.D. 676, 688–90 (S.D. Fla. 2012)
  • Resolution Trust Corp. v. Southern Union Co., 985 F.2d 196, 197–98 (5th Cir. 1993)
  • United States v. Taylor, 166 F.R.D. 356, 361–63 (M.D.N.C. 1996)
  • Vehicle Market Research, Inc. v. Mitchell International, Inc., 839 F.3d 1251, 1260–61 (10th Cir. 2016)

米国民事訴訟におけるRule 30(b)(6)の特徴は、証人個人が知っている事実ではなく、会社が保有し、又は合理的に取得できる情報について、指定証人が組織を代表して証言する点にあります。そのため、事件当時の担当者を出席させるだけでは足りず、関係文書の確認、現旧担当者への聞き取り、部署間の情報集約を通じて、会社として回答できるよう準備する必要があります。

日本企業では、製品開発、品質管理、承認、文書保存に関する情報が、日本本社、米国子会社及び複数の部署に分散している場合があります。また、稟議や合議による意思決定、日本語資料と英訳の相違、通訳を介した証言も、準備を難しくする要因です。「日本本社が決定したため、米国子会社の証人は知らない」という回答だけでは、会社として合理的な調査を尽くしていないと評価される可能性があります。

Rule 30(b)(6)の通知を受けた企業は、証人の選定に先立ち、質問事項、適用されるLocal Rules、担当裁判官の運用、事件別命令及び社内の情報源を確認すべきです。準備不足は、追加depositionや費用負担、証拠上の制限につながるだけでなく、会社の説明に対する信用にも影響します。日本本社と米国子会社が早期に米国の訴訟担当弁護士と連携し、証言範囲、調査方法、証人及び使用言語を整理する対応が重要となるでしょう。

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