最近ゴルフに凝ってしまいました。といっても、いまだに一度もクラブを握ったことはなく、ゴルフのテレビゲームに夢中になったのでもありません。ある日何気なく見ていたテレビのゴルフ番組で、この短いパットを入れると勝利まであと少しという場面で、若いゴルファーのアップが映し出されて、手が震えているのがわかりました。何度も何度も間をおいて握りなおすのですが、震えをどうしても止められないようでした。最終的には成功したのですが、その次のゴルファーも緊張のため、短いパットに苦労していました。最後のラウンドに近く、しかもトップグループで時間を充分に取れる状況だったので、テレビ制作側でも視聴者に彼らの緊張を画面を通しても手に取るように撮影できたのです。「ゴルフとはなんと繊細なスポーツなのか」という印象が残りました。
ゴルフの経験のある方は、「何をいまさら素人が、、、」と思っていらっしゃるのでしょうが、それからは、メジャーなプロのトーナメントでも、最終日の途中まで2位に5打差以上水をあけているトーナメントリーダーが、最後の5ホールかそこらで、下位のプレヤーに瞬く間に追い上げられて優勝できない例が、数え切れないぐらいあるというのも、理解できるようになりました。また連戦練磨の一流プレーヤーも、最後のウィニングパットで手が震えるのもわかる気がしてきました。
さて、これが法務とどう関係があるかということですが、国際法務の交渉(訴訟・紛争解決を含む)はゴルフと同様に、精神的な要因の大きい業務といえるのではないでしょうか。私もヨーロッパからアメリカまで、あちこちでビジネスディールから紛争案件に至る大小の交渉を担当するなかで、一方的に優勢に見えたケースにおける土壇場での大逆転、地道な準備の末の完勝、難しい戦いという予想に反し好条件での和解など、いろいろな経験をしてきました。交渉の場のシチュエーションも、弁護士、会計士、経理担当者、法務担当者、業務担当者、トップの経営陣など、豪華メンバー揃いの交渉チーム対たった一人の担当者という交渉もありますし、交渉は行き当たりばったり成り行き任せというスタンスから、国際的な時差を使ってスピーディかつ組織的にバックアップ体制を整えてくるチームまで、十人十色ならぬ十社十色のパターンがあります。
どのような交渉にせよ言えるのは、第一に知識(ゴルフで言えば技術でしょうか。)は必須ですが、豊富な知識だけで必ずしもうまくいくわけではないということです。交渉は単なる知識だけに留まらず、人としての幅や人生経験も含め、全身全霊で行う知的な格闘技かもしれません。
実際には、オールスターチームが必ずしも勝つとは限りません。これまで一人で大人数相手の交渉を行い、結果的には良い結果(条件)を引き出した人を何度も見てきました。すなわち正確で十分な知識の上に、奥深い人間性という+αの能力を発揮できる交渉力こそ、最後の最後にものをいうのです。この力は、文化、習慣、歴史の大きく異なる者同士が交渉を行う国際法務の舞台では、特に大きな影響力をもちます。さらに突き詰めて言えば、法律や考え方が違っても、人間の本音の部分で利己的な考えに固執せず、誠心誠意問題を解決しようという姿勢が、知らず知らずのうちに相手を動かし、交渉をまとめ上げて問題を解決に向かわせるようにも思えます。だからこそ、良い法務が重要なキープレーヤーになれる可能性があるのでしょう。
コメント